東京高等裁判所 平成元年(行ケ)27号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二によれば、本願考案は、転写マーク等として用いる転写シートに関するものであつて(昭和五九年六月二一日付け手続補正書第一頁第一九行、第二〇行)、従来の加熱転写用シートでは、グラビア印刷等の方法によつては光沢のあるメタリツクな感を呈する転写シートを得ることができない(昭和六〇年一〇月一二日付け手続補正書第二頁第八行ないし第三頁第一行)との知見に基づき、メタリツクな感を呈するマークを提供すること、所望の文字、模様等の画線を箔で形成することにより、その生産性を向上させ、転写マークの製造機械の簡易化を図り、箔押層を保護膜表面上に形成することによつて、箔の剥げ落ちや変色を防止することができる転写シートを提供すること(同第三頁第二行ないし第一〇行)を技術的課題(目的)とし、実用新案登録請求の範囲第一項(本願考案の要旨)記載の構成を採用し(同五頁第二行ないし第一一行)、この構成により、保護膜上に容易に模様、文字等の画線を箔で形成でき、メタリツクな感を呈するマーク等の生産性を向上させることができるとともに印刷機械の簡易化を図ることができ、また、転写後は保護膜を通して箔押層が見えるため、メタリツクなマークとなり、しかも、転写後箔押層を被覆保護させることにより箔の剥げ落ちや変色を防止できる(昭和五九年六月二一日付け手続補正書第六頁第一二行ないし第七頁第四行)という作用効果を奏するものであることが認められる。
2 第一引用例及び第二引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願考案と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右事実によれば 第二引用例には、箔を重合させ加熱された版を押し当て接着させることにより、画線を形成して成る箔押層と、より下層のアルミ蒸着層(本願考案の箔押層に相当する。)が保護被膜を通して透視し得るようにした構成が記載されているから、第一引用例記載のものにおいて、第二引用例記載のものの右構成を採用し、本願考案の右相違点にかかる構成を得ることは当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。
この点について、原告は、本願考案の箔押層と第一引用例記載のものの印刷層とはその構成が全く相違している旨主張するが、前記審決の理由の要点によれば、審決はこの点を両者の相違点として認定していることが明らかであるから、審決に原告主張の誤りは存しない。
また、原告は、第二引用例には、その転写箔を他のもので保護する方法等については何ら記載されていない旨主張するが、第一引用例記載のものには、本願考案の保護膜に相当する構成が記載されていることは、当事者間に争いがなく、審決はこの第一引用例記載のものに第二引用例記載のものの前記構成を適用して本願考案を得ることができるとしているのであるから、原告の右主張は理由がない。
したがつて、審決の相違点に関する判断には誤りはない。
3 次に、本願考案の奏する作用効果は前記1認定のとおりである。
原告は、審決は本願考案の奏する顕著な作用効果を看過した旨主張する。
しかしながら、保護膜上に容易に文字、模様等の画線を箔で形成でき、メタリツクな感を呈するマーク等の生産性を向上させることができるとともに印刷機械の簡易化を図ることができるという作用効果及び転写後は保護膜を通して箔押層が見えるためメタリツクなマークとなり、しかも、転写後は箔押層を被覆保護させることにより箔の剥げ落ちや変色を防止できるという作用効果のうち、メタリツクな感を呈するとの点は第二引用例記載のものの前記構成が奏することができるものであり、その余の作用効果も第一引用例記載のものに第二引用例記載のものの前記構成を適用することにより当業者が容易に予測できる程度のものにすぎない。
したがつて、審決に本願考案の顕著な作用効果を看過した誤りは存しない。
4 以上のとおりであつて、相違点についての審決の判断、及び作用効果についての審決の認定に誤りはないから、審決に原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。
剥離シートと、
前記剥離シートの一方主面に形成された保護膜と、
前記剥離シートの表面に、箔を重合させ加熱された版を押し当て接着させることにより、模様、文字等の画線を形成して成る箔押層と、
前記箔押層の表面に形成された転写用接着剤層とから成り、
より下層の箔押層が保護膜を通して透視し得るように構成されたことを特徴とする、転写シート。